活断層調査報告


地震断層調査の結論

Wed, 17 Nov 2004 08:14:41 +0900
鈴木康弘(名古屋大学)・渡辺満久(東洋大学)・廣内大助(愛知工業大学)

 下記の速報ですでに述べた事実から、今回の中越地震は小平尾断層と六日町盆地西縁断層の北部が活動して起こしたものであると結論づけられる。地面の撓みやクラックは断層に起因しないものも多いが、地点ごとで地滑り等の2次的現象かどうかの峻別をした結果、断層に起因するものが見出される。これには高度な地形学的判断を必要とする。
 地表地震断層の認定において最も重要なことは、その断層線を境に、大地全体が上下(もしくは左右)に変位したことを確認することにある。堀之内町以北で想定される地表変形は、基本的に幅数十mの範囲に現れる緩やかな撓曲であり、このような上下変位を検知し得る条件の良い場所(たとえば平坦な舗装道路等)でのみ確認され、その他の場所では検知できない。コンクリート舗装等、割れやすい物性の箇所では例外的に開口亀裂を伴うが、剛性の高い構造物は多少傾くだけで破壊せず、変位を見逃し易い。このため断層変位を追いかけることは(小出町の一部を除けば)容易ではないが、それを見出すことにこそ意義があり、見出されない場所の存在を持って、断層運動を否定するのは的を射ていない。
 本HPで既に報告した地点の現象は地滑り等の影響による二時的・局地的なものではなく、断層運動によるものと判断される。その主な根拠は、以下の通りである。

(1)広神村小平尾の道路面の撓みは、道路工事の際の切り土・盛り土境界付近で生じているが、切り土部分(隆起側)で道路面が上に凸の撓み上がりをしている。これは切盛境界で生じる地滑り等では起こり得ない。しかも既存の活断層線の真上で起きていることも注目される。

(2)堀之内では、既存の活断層線の真上で、高速道路面と旧道上の2箇所で同様の変位量を持つ変位が確認される。高速道路のみであれば、工事に起因する構造的な影響の可能性もあるが、同程度の変位量があると認めらた旧道は、盛土ではなく、もともと平坦な地形面上にあるため、断層変位以外の要因は考えられない。路面上の地割れの併発も、撓曲による変形によって「生じるべき箇所」に起きている。地震以前にこの撓みがなかったという近隣住民の証言もある。

(3)小出町では、既存の活断層線上で明瞭なruptureが500m程度の範囲で確認され、20cm程度の上下変位が確実に認められる(産総研の追認結果では1km以上続くとされる)。西方の魚沼丘陵には地滑りも多く、その影響の可能性は検討に値するが、この地点のまさに西側には明瞭な地滑りブロックは存在しない。(大規模な地滑りブロックはここよりも北方に位置していて、その分布とは重ならない。)地震直後の航空写真でも滑落崖等は認められず、工事関係者の話でも少なくとも地震直後の段階ではクラック等も見出されていない。

 上下変位が20〜30cm程度と小さく、しかも地表地震断層が不連続的にしか確認できないことについては、地震規模から見て、むしろ自然のことである。「連続的に見つからないこと」を問題にするよりも、「断層運動でしか説明できない現象がある」ということを重視すべきである。その判断は各地点における、上述の現象が根拠となっている。
 地表地震断層の「連続性」や「直線性」ばかりを重視するのは意味がない。地表地震断層の「明瞭性」をやたら重視し、不明瞭なものを精査しなければ、活断層と地震の関係は永遠にあやふやなままになってしまう。

図:中越地域の活断層と地震断層 (黒線:活断層、赤線:活断層が中越地震時に再活動した部分)


報告者:鈴木康弘


[速報2]六日町盆地西縁断層沿いにも中越地震の地震断層!

Sun, 31 Oct 2004 17:23:15 +0900
鈴木康弘(名古屋大学)・渡辺満久(東洋大学)・廣内大助(愛知工業大学)

 既報で小平尾断層沿いに撓曲変位があることについて報告したが、10/29、新たに六日町盆地西縁断層沿いの数地点において、断層変位に伴う地表変形を確認した。小平尾断層と六日町断層北部が地下では一連のものであることは疑いはなく、これらの活断層が中越地震を引き起こしたと判断される。
 六日町盆地西縁断層沿いで地震断層が確認される地点は、堀之内町と小出町の活断層線上にある。堀之内町では、都市圏活断層図に示された活断層線のまさに真上、関越自動車道の下倉トンネルの東側入り口付近の路面(写真1)と、その南側の旧道の路面(写真2)に比高20cm程度の撓曲変位が認められる(図1)。路面上には今回の地震時に生じた複数のクラックがある。近隣住民の話では旧道上の撓みは地震前にはなかったと言う。

 
      図1:堀之内町における六日町盆地西縁断層の変位
 




   写真1:上越自動車道 下倉山トンネル入り口付近                    写真2:堀之内町 田戸の旧道


 一方、小出町では、魚野川左岸の集落内の水田面・庭面等に、比高10〜20cmほどの撓曲変位が明瞭に現れている。変位は延長200m以上追跡可能で、水路(写真3)や畑面(写真4)に逆断層運動に伴う短縮変形が現れる。数カ所で家屋直下を通過している。これらの地点は都市圏活断層図の断層線からはやや離れている。これは、この付近では活断層による累積的な変位地形が魚野川の側方浸食によって失われているためである。都市圏活断層図には破線(「位置やや不明瞭」)で示されており、指摘された事実に矛盾はない。




   写真3:断層運動により破壊された水路                    写真4:畑に現れた地震断層(六日町盆地西縁断層)


 以上のことから、西側傾斜の断層面を持つ本震等の震源は両断層にあったと考えられる。しかし、これらの断層では小千谷市の隆起は説明できない。この隆起運動を説明するためには、別の要因(たとえば別の断層活動)を考えざるを得ない。付近には数多くの活褶曲や活断層が分布する。これらにおいて、明瞭な活動の痕跡は今のところ明らかになっていない。活構造がどのように活動し、小千谷の隆起や被害に関与したか否かは大きな課題として残っている。

お願い:小出町の断層出現地点では、住民が不安を感じています。地震通過地点のほとんどは公道でなく,家屋の裏側などプライベートな場所です。くれぐれも研究者やマスコミが大挙して訪れ、住民の不安を煽らないよう、細心の配慮をお願いします。我々も一箇所に長時間留まらないように心がけました。2500分の1スケールでのマッピング、断面測量等は終了し、公表準備中です。

報告者:鈴木康弘


[速報]六日町断層北方の小平尾断層沿いで新潟県中越地震の際の地形変位を発見!

Thu, 28 Oct 2004 09:40:12 +0900
鈴木康弘(名古屋大学)・渡辺満久(東洋大学)・廣内大助(愛知工業大学)

 新潟県広神村小平尾(おびろお、図1)の小平尾断層を横切る2本の道路上およびそれらの周辺において、平成16年新潟県中越地震に伴う地表変形を発見した(写真1)。


 図1:六日町断層および小平尾断層の位置図                       写真1:国道352号線道路上の撓曲変位




図2:道路上の地形断面図(a:国道上、b:その西方100mの道路上)


 ここでは北東−南西方向にのびる活断層(小平尾断層)線上において、これとほぼ直交する方向に走る国道352号線およびその西方100メートルに位置する道路の路面が撓曲しており、その上下変位量は20〜30cm程度である(図2)。断層の隆起側では路面に複数の引張クラックが見られ、縁石には隙間が数多くみられる(図2a)。このようなクラック・隙間は、低下側には見られない。これらの変形は、地震時に路面が上に凸型の変形をしたことによって生じたものと考えられる。
 撓曲崖沿いには、水平短縮を被ったと判断される排水溝の明瞭な破壊が2地点で認められる。水平短縮の方向は撓曲崖の方向と直交する。また、西方の路面上には短縮変形に伴う道路の局地的な盛り上がりが生じている。こうしたことから、変形は、小平尾断層の逆断層運動による一連の変形と解釈される。
 なお、こうした変形が現時点までに確認される地点は、小平尾付近に限られている。今回の調査では、新潟県中越地震の震源断層を推定するため、候補となる十日町盆地東縁断層と六日町盆地西縁断層および、その北方延長の小平尾断層沿いの地形変形を調査したが、十日町盆地西縁断層および六日町断層沿いには、いわゆる地表地震断層と呼べる変形は全く生じていなかった。地形変形が小平尾断層沿いの一部にしか見つからない理由については明確ではないが、地震の規模が地表地震断層が出現するか否かの境界程度であったことと関連があると思われる。
 小平尾付近で確認された現象は、この地点を通る小平尾断層の活動を反映したものであると推定され、新潟県中越地震の震源が小平尾断層(および南方延長の六日町盆地西縁断層北部)であった可能性が高いと判断される。

報告者:鈴木康弘


Sun, 24 Oct 2004 21:12:35 +0900 10/24
名古屋大学・東洋大学合同調査

 震源は魚沼丘陵下にあり、東西両側には候補となる活断層として、東には六日町断 層と小平尾(おびろう)断層、西には十日町東縁断層および山本山断層の一部が分布 する(国土地理院「都市圏活断層図」)。これらの分布は、1991年「日本の活断層」 刊行当時は部分的にしか認知されていなかったが、近年の調査によってその分布が明 確になっており、決して活断層のないところに起きた地震ではない。

 合同調査隊は、10/24、十日町盆地東縁断層および山本山断層沿いに地表地震断層 が出現しているか否かを調査し、以下の結果を得た。

  1. 十日町断層および山本山断層沿いで、明瞭な地表地震断層の出現は認められない。
  2. 十日町断層南部ではほとんど変位の形跡はない。しかし、震度6強を記録した 十日町市街地以北では、活断層通過位置付近に小規模な地割れや被害集中等が確認さ れる箇所があり、わずかな地形の撓みが生じている可能性がある。

報告者:鈴木康弘


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Last modified: Wed Nov 17 10:50:02 2004